「AI時代の分かれ道」全3回シリーズの第3回(最終回)です。 ① 情報には2種類ある ② 情報疲れの正体と、その奥にあるもの ③ もう一人の自分を育てるという選択(この記事)
その逆転の可能性を、私たち一人ひとりはどう手にしていけばいいのか。ここからはその話を、できるだけ具体的にしていきます。
結局、自分を守れるのは、自分しかいない
前回の話を、いったん受け止めるところから始めます。
届く情報の起点が、自分ではなく発信側にある。その構造は、受け取る側がどれだけ賢くても、一人の努力では変えられない。だとすれば、残された道はひとつです。受け取る側が、自分で自分を守るしかない。
そして、自分のことをいちばんよく知っているのは、最後はやはり自分です。だから本来、これは自分自身でやるべき仕事のはずでした。
でも——前回見たとおり、私たちにはもう、その時間も気力も残っていません。毎日浴びせられる膨大なおすすめを、一人で選り分け続けるのは、現実的に無理がある。情報疲れとは、その「無理」が積み重なった姿でした。
でも、AIは企業だけの道具ではない
ここで、発想をひっくり返してみます。
これまでAIは、もっぱら企業の側にありました。あなたから注意や時間やお金を引き出すために、企業が使う道具。前回まで見てきたのは、その姿です。
けれど、AIという技術そのものは、どちらの味方でもありません。同じ技術が、24時間、あなたのためだけに働く存在にもなれる。今まで企業の側にしかなかった力を、個人の側に置き直すことができる。
AIが本当に面白いのは、ここからだと私は思っています。
あなたという企業の、受付と警備員
少し、たとえ話をさせてください。
自分という一人の人間を、ひとつの企業だと考えてみてください。
これまで、その玄関は無防備に開け放たれていました。毎日、無数の訪問者——広告、レコメンド、おすすめ、誰かの「あなたのため」——が、誰の許可も得ないまま受付を素通りし、奥の応接室まで上がり込んできていた。
これからは、玄関に自分専用の受付と警備員を置くべきです。それも、社長であるあなたを誰よりも理解している、あなた専属のチーム。彼らが訪問者一人ひとりを見極め、本当に意味のある相手だけを、あなたのもとへ通す。
これが、「もう一人の自分」を持つ、ということのイメージです。
ただし、警備員の「目利き」が問われる
ただ、ここには落とし穴があります。
その受付と警備員が、社長であるあなたのことを浅くしか理解していなかったら、どうなるでしょうか。本当は通すべき大切な来客まで、門前払いにしてしまう。逆に、目利きの甘い警備員なら、結局また、口のうまい搾取目的の訪問者を奥まで通してしまう。
つまり、鍵を握るのは、あなたの文脈を、どれだけ正しくその警備員に渡せているかです。
ここで、第1回の話がつながります。あなただけに紐づいた個人の情報を、狭く深く、複数の領域を横断して集める。それができてはじめて、警備員はまともな目利きになれる。「もう一人の自分」は、放っておいて育つものではなく、あなたの文脈を渡しながら、一緒に育てていくものなのです。
少しだけ、その警備員の仕事ぶりを想像してみます。出来のいい受付なら、こう判断するはずです。「この"おすすめ"は、社長が先月から気にしている件に、本当に関係がある。お通ししよう」「この派手な広告は、社長の時間を奪うだけだ。お引き取りいただこう」。あなたが一日に何十回も繰り返していた、あの消耗する選別を、あなたの代わりに、あなたの基準で、静かにこなしてくれる。それが、まともに育った警備員のいる暮らしです。
それを支える、新しい経済のかたち
そして、もう一つ。この「もう一人の自分」を、企業の都合の力学から切り離して動かすには、土台の経済のかたちごと、組み替える必要があります。
分かりやすい例として、広告の話をします。
いまの広告は、お金が「企業から、サービスの運営者へ」流れます。だから運営者は、広告を見せれば見せるほど儲かる。ここに、あなたの幸福は関係ありません。
これを、こう変えるとどうなるでしょうか。広告費を、運営者ではなく、受け取ったあなた自身に還元する。そして、あなたの「もう一人の自分」が、本当にメリットのある情報だけを通すガードになる。どうでもいい広告、搾取目的の広告は、そもそもあなたに届きません。価値ある情報だけが届き、しかもそれを受け取ったあなたに、インセンティブ(それが現金になるのか、何らかのクレジットになるのかは、まだ決めきれていません)が入る。
企業の側にも、ちゃんと得があります。本当にそれを求めている人にだけ届くので、満足度も信頼も上がる。むやみにばらまく必要がなくなる。
その結果、何が起きるか。搾取目的の企業は淘汰され、ユーザーを本当に考える企業だけが生き残っていく。
念のため言い添えると、広告はあくまで分かりやすい一例です。理想は、搾取の要因そのものを、土台から少しずつ外していくこと。収益はシンプルにサブスクだけで成り立たせたい。こうした新しい経済の構造の上でサービスを動かす——だから私は、これを単なる機能ではなく、ひとつのエコシステムだと考えています。
想像してみてください。受け取る情報の一つひとつに、「これは自分にとって価値があった」という手応えがある。しかもそれが、押し付けられたものではなく、自分の側が選んだ結果として届く。情報を浴びるたびにすり減っていく、いまの感覚とは、ちょうど逆の方向です。
これは、情報の「矢印」を反転させる試みです
ここまでの話を、一つのイメージにまとめます。
これまで、おすすめの矢印は、すべて「外から自分へ」向いていました。企業が、売りたいものを、企業の都合のタイミングで、こちらへ押し込んでくる。
新しいエコシステムでは、この矢印が反転します。自分を理解したAIが、あなたの代わりに、外の膨大な情報の海へ、取りに行く。そして、いまのあなたに本当に有益なものだけを選んで、持ち帰ってくる。
同じ「提案」でも、起点が「企業の売りたい」から「あなたの知りたい」へ変わる。情報の矢印を、企業→あなた から、あなた→世界 へ反転させる。これが、第1回で話した「情報の2種類」「広く浅く/狭く深く」の話と、ここでひとつにつながります。
もう一つの場面:判断を「ほどく」相手
矢印の反転は、いわば攻めの話です。もう一つ、守りの場面も挙げておきます。
たとえば、衝動的に高い買い物をして、少し後悔している夜。
あなたを理解したAIは、二つの方向から助けてくれます。
ひとつは、「次に同じ後悔をしないために、どんな判断の癖をつければいいか」を、一緒に考えてくれること。もうひとつは逆に、「その買い物にも、実はこういう価値があったのでは」と、一人では気づけなかった面を見せてくれること。
大事なのは、この二つが正反対を向いていることです。片方は反省をうながし、もう片方は肯定する。普通の「おすすめ」なら、売りやすいほうへ誘導するでしょう。でも、あなたのためだけに動く存在は、何かを売る必要がないからこそ、その時のあなたに必要なほうを、ちゃんと選べる。
人は一人だと、バイアスで考えがすぐ固まります。自分のことを分かったうえで、客観的に、総合的に見てくれる存在がいると、その固まりがほどけていく。
ここに、はっきりとした対比があります。企業のレコメンドは、あなたの判断を歪める。自分のためのAIは、あなたの判断をほどく。
サービスを選ぶ基準が、変わる
ここまで来ると、サービスの選び方そのものが、変わってきます。
これまで私たちは、サービスを「機能」と「価格」で選んできました。これからは、そこへもう一つの軸が加わります。**「このサービスは、自分専用のAIを育てられるか」**という軸です。
しかも、理解は一日では育ちません。だからこそ、早く始めるほど、あなたのAIに、あなたの情報が貯まっていく。これは、後から取り返すのが難しい種類の差です。
いまのところ、世の中のサービス選びから、この観点はほとんど抜け落ちています。私はこれを、かなり深刻な見落としだと思っています。一刻も早く、この軸を持っておくべきです。
だから、あなたに伝えたいことは、3つだけ
最後に、行動の話をします。難しいことは言いません。3つだけです。
1. 知ること。 いまあなたに向けられている情報のほとんどには、裏があります。その裏とは、「あなたの幸福を第一には考えていない」ということ。あなたの幸福度より、企業の利益や、他の誰かのメリットが優先されている。きれいごと抜きの、これが現実です。まずは、これを知ってください。
2. 考え続けること。 そのうえで、「自分の幸福度を最大にするには、何が必要か」を、日々考え続けてください。この経済のしくみは、これからゆっくり変わっていきます。その変化の中で、自分の幸福を一番に上げる方法を考え続けること自体が、搾取の構造から自分を守る力になります。
3. 試してみること。 そして、その選択肢の一つとして興味を持ってもらえたら——私が作っている DoubleHub も、まさにこの思想で作っている、一つのサービスです。「もう一人の自分」を育てるとはどういうことか、よかったら一度、触ってみてください。(アプリの詳しい話は、DoubleHubのページにまとめています。)
おわりに
AI時代の本当の分かれ目は、AIをうまく使えるかどうかではありません。
搾取の構造に最適化されたAIに、「使われる側」へ回るのか。それとも、自分の幸福度に最適化されたAIを、自分で育てる「側」に回るのか。本当の分かれ目は、そこにあります。
そして、この選択を、のんびり眺めていられる時間は、あまり残されていません。前回も書いたとおり、私たちは、AIの使われ方そのものが決まっていく、ごく短い時間軸のただ中にいるからです。早く動いた人から、自分の側に立つAIを、静かに育てはじめています。
その選択は、もう、私たち一人ひとりの目の前に置かれています。どちら側に立つかを決めるのは、ほかの誰でもなく、あなたです。
3回にわたって読んでいただき、ありがとうございました。